コインが五つ
パスポートコントロールの先に、どこの空港でもこの待合室があるが、旅をしていて、飛行機に乗る前のこの待合室でのいっときほど、心の休まるときはない。
あとはただ、案内のアナウンスを待って、目ざす飛行機に乗ればいいのだから。
このときも前が前だけに、戦い終わっての兵士みたいな心境だった。
まだ小銭は握ったままだった。
そういえばこの小銭はスーヴニールだから、ちゃんとバッグの中へしまっとかなくちゃと、手のひらを広げた。
べっとりと汗のついたコインが五つか六つ手のひらの中にある。
その五つ六つをはがすようにして、つまみ上げた。
その下に、これまたぺたっと汗でついた何やらがある。
コインをとり除いてよく見たら、こまかくたたんだ紙幣が一枚、よく広げてみたら、なんと先刻あの運転手に渡した最後の一枚の札ではないか。
とすると、先刻、確かに彼の手に渡したはずのものが、ここにあるとすれば、わかった、そういえばその札を渡したとき、彼は両手でこまかくたたんでいた。
それをポケットに入れて、こんど小銭を私にあわてて渡したとき、ついこの札もいっしょに私にくれてしまったのだろう。
汗にぬれた手に、紙だからくっついたのかもしれない。
こんどは急に、あの運転手が気の毒になった。
けさからの不愉快な思いはすっ飛んでしまっていて、いまはただゴメンネという気持ちでいっぱいだった。
そして日本へ帰ってきてからも、その海外旅行先だったダカールの札を見るたびに、あのときの彼の黒い顔と白い歯を想い出すのである。