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2012年01月 アーカイブ

コインが五つ

パスポートコントロールの先に、どこの空港でもこの待合室があるが、旅をしていて、飛行機に乗る前のこの待合室でのいっときほど、心の休まるときはない。


あとはただ、案内のアナウンスを待って、目ざす飛行機に乗ればいいのだから。


このときも前が前だけに、戦い終わっての兵士みたいな心境だった。


まだ小銭は握ったままだった。


そういえばこの小銭はスーヴニールだから、ちゃんとバッグの中へしまっとかなくちゃと、手のひらを広げた。


べっとりと汗のついたコインが五つか六つ手のひらの中にある。


その五つ六つをはがすようにして、つまみ上げた。


その下に、これまたぺたっと汗でついた何やらがある。


コインをとり除いてよく見たら、こまかくたたんだ紙幣が一枚、よく広げてみたら、なんと先刻あの運転手に渡した最後の一枚の札ではないか。


とすると、先刻、確かに彼の手に渡したはずのものが、ここにあるとすれば、わかった、そういえばその札を渡したとき、彼は両手でこまかくたたんでいた。


それをポケットに入れて、こんど小銭を私にあわてて渡したとき、ついこの札もいっしょに私にくれてしまったのだろう。


汗にぬれた手に、紙だからくっついたのかもしれない。


こんどは急に、あの運転手が気の毒になった。


けさからの不愉快な思いはすっ飛んでしまっていて、いまはただゴメンネという気持ちでいっぱいだった。


そして日本へ帰ってきてからも、その海外旅行先だったダカールの札を見るたびに、あのときの彼の黒い顔と白い歯を想い出すのである。


世界中の人がとても親切


スリランカのコロンボで忘れ物をした。


海外に行くならよくある話ではあるけれど、忘れ物といっても、このときは私にとって最大の忘れ物だった。


旅には片時も離せない必需品がぴっちりと入った小型のケース。


詳しく話すことにしよう。


だいたいこういうケースとか、手帳とか、万年筆、ボールペンなどに凝るくせが私にはある。


万年筆、ボールペンの類は、今のところイタリアのオーロラというのが気に入っているし、手帳はエルメスのを常用している。


バッグ類もエルメスの物が多いが、この忘れたケースも、わざわざエルメスに注文して作らせた旅専用のものだった。


大きさはちょうど新書版の本ぐらいの大きさで、三方つづきのファスナi付き、だからこのファスナーを開けると左右に開いて、そこに旅に必要な物がすべて入る。


まず中央の背にあたると乙うにボールペン・オーロラが差してあり、その陰にイニシャルが金の刻印で打ってある。


右側は縦に四段にポケットが切ってあり、中央から通貨、旅行小切手、名刺、そして最後は二つに仕切ってあって、クレジットカード、と、これらもフランス語で金の刻印が打ってある。


左手は三段。


右からパスポート、札、硬貨入れ(ここだけはファスナーが付いている)になっていて同じように刻印入りである。


さらにこれ全体が二重になっていて、上部から出し入れできるから大きな書類はこの中へ入れられる。


また、上部には提手がついているから持ちやすいし、つくった時には高価いなと思ったが、二十年も重宝して使っていると、高価いどころか、いい物を買ったという満足感でいっぱいだった。

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